絵を描くことにおける「想像(イマジネーション)」は、人間の成長にどのようなことをもたらすか
「絵を描く」ということ
絵を描くという作業は、紙(描かれる媒体)とペン(描く媒体)を使用し、意図的に脳内のイメージを自らの肢体を駆使して、図示化し、可視化させるものと考える。この作業によって、人にイメージを伝えること、自己の精神状態を投影して分析する事が可能となる。尚、偶然性を生かして意図せずに絵を描く事も可能であるが、今回の課題においては前者の条件から考察を述べることとする。
ビジュアルイメージの役割
人は絵を描く時に、必ず描くものを頭の中でイメージする。そのイメージをそっくりそのまま絵に移す事は極めて困難であり、誰もが出来る事ではない。イメージとは曖昧な存在であり、はっきりとした形を持っていないことや技術的な問題が生じるからである。しかし、そこで新たに「ここはもっとこうした方が良いかな」「ここを目立たせるにはこれが必要かな」と、表現方法を想像する力が使われる。目の前にある問題にどう対応していこうか様々な方法を考案する事で、課題発見能力や課題探求精神が育まれる事が期待される。また、「絵に描く」行動はそれだけ物事をはっきりさせる事が可能である。と言い換えると、曖昧だったイメージを可視化する事で的確に表現し、自身の整理や他者への伝達に役立たせる事が可能であると言える。
絵には制作者の精神状態が大きく左右され、人のパーソナリティや心の状態を確認する性格検査にも絵を描かせる方法がある。有名なものはバウムテスト(木を描かせて構図や内容の様子から心理を診断する投影法)があり、心療内科でも始めに描かされる事が多い。過去に絵を黒く塗り潰す児童の絵から家庭環境の問題に気づいた例もある。
「絵を描く」ための「想像」
次に、想像したものを絵におこす場合ではなく、絵を描く事を目的として想像を働かせる場合について考える。絵を描く事が趣味な場合や美術の宿題等様々な背景が伺えるが、導き出されるイメージは今「一番表現したいもの」であると考える。この事から、性格検査同様に自分自身を反映させることが可能であると言える。描きたい情景を思い出す肯定や自分自身について
想像から得られるもの
想像するという過程は、頭の中に何らかのものや事柄を思い描く事であり、その際「未来的なもの」「予測的なもの」「新たなもの」という条件が加えられると考える。今実際に目の前にあるものや事柄をそっくりそのまま頭の中に投影する事は「想像」とは呼ばず、今目の前にある条件から更に付け加えられた場合や、今目の前に無いものを新たに思い描く事で初めて「想像」していると言えるからである。想像する事は0から1、1から2を生み出す過程であり、人は「想像」する事から形の無い創作を行っている。その事から私は『人は「想像」という何気ない行動を通して常に創作を行っている』と考え、『人は主体的に何かを作り出す能力が潜在的に備わっている』ことを示していると考える。それは物事を前に進める働きを行い、問題を解決する力を担っている。
人間の成長には家庭や学校、地域の環境や教育過程が大きく影響し、近年教育界ではいじめや道徳の教科化が話題に挙がっている。私はそこで「生きる力」について改めて考えるべきだと強く思っている。「生きる力」とは自ら課題を意識し、その課題に対し自分なりに考えて行動出来る力であり、それには自身や周囲を客観的に分析する能力と、問題解決に至る可能性をいくつか考案する発想力、そして実行力の3つが大切だと考えている。その過程において、正しい選択を行うため、見通しを持って行動するためにプランを想像するシュミレーション能力が備わっていると心強い。
私なりの「絵を描く」と「想像」
また、「想像」とは(1)現実にはありえないことを頭の中だけで思ったりすることという意もあり、社会的に実現不可能な欲望や葛藤を芸術という形で表現し、その実現によって自己実現を図ろうとすることも可能である。心理学では昇華と言い、頭の中だけは人類自由である。想像し、絵に表現することでストレスのはけ口にしたり、絵の世界でだけも夢を叶える。という事が可能である。
私は自主制作の企画で、『変身願望』という似顔絵制作を行っている。ただ依頼者の似顔絵を描くだけではなく、「昔からお姫様になりたかった」や「スーパーマンに憧れた」というかつての思いをイラストの上で実現させる試みである。他にも亡くなったペットとのツーショットを描いたり、少しだけ人を幸せな気持ちにする事が可能であると考える。これは演劇や歌と異なり、その人自身を描く事が可能なため、「自分だと当てはめて想像する」という作業を短縮出来る。「絵を描く」という作業では、直接的な刺激として、想像上のイメージを瞬時にリアルに伝える事が出来るのである。私はこの活動において、絵を描くことにおける「想像」は、夢を実現させたり幸せな感情を生み出すためのプロセスであると考える。プラスな感情を与える事によって、成長過程においても良い刺激となる事を期待する。
以上5点から、絵を描くことにおける「想像」は、何もない状況から何かをイメージするという「生み出す能力」や、形に表現する際に試行錯誤する「課題発見能力」と「課題探求精神」を育む事が可能である。また、それらから社会を生き抜く「生きる力」が備わるよう成長する。また、幸福を与える刺激をもたらし、より良い心の成長に繋がる事が期待出来る。
参考文献
大辞林 第三版の解説